第1回
2018年08月24日
お題:蒸し暑い密室だった・切子硝子
453文字 オーバー
窓なんて締め切っていた。たいした秘密でもないのに、お得意の笑顔で内緒話のポーズをされてしまえば、閉められた鍵を開けようなどとは思えなかったもので。
二人して机の上、紅茶に詰め込んだ氷が全て溶けてグラスも二人も汗をかいて何もかもぬるくなってしまった中で、レースで編まれたコースターの上に鎮座しているそれだけがきらきらと冷たく、鋭く光っていた。
「私が競技会で頑張ったら、ほしいものがあると言っていたでしょう」
そこでつながりに気付いた私はいつの間にか必死に見つめていたその、切子硝子の筒から、万華鏡からはっと顔を上げた。こちらを見る涼し気な青の見守るような眼差しになんとなく後ろめたくなってもう一度目をそらす。
「これのことなの」
「そう、見たでしょう? 私が一番だったから、お願いしたの」
ひそめるような声から跳ねるようになっていった声。
「あなたと二人で見たいからって」
顔が上げられないまま、万華鏡の極彩の眩しさを思い出す。
汗ばんで熱くなった肌も色もごまかせる密室がきっと、このためにあるのだろうと思った。