第35回 初夏の章

2023年05月25日

お題:夏めく、チョコ、梅


縁側に戻って座り直すと、チョコが柔らかくなってしまっていた。  ちょっと冷蔵庫から出しただけなのに、にわかに夏めく気分になった今日の天気のせいだ。お気に入りのグラスに満載していた氷も既に角を溶かしてつやつやと。今日は暑いから、梅シロップを詰めた透明な水筒にこれまた氷を詰めてきた間にだ。少ししょんぼりしながら改めて縁側の特等席に陣取る。  全開にした磨りガラスの戸から入ってくる風も、やっぱりもう夏の匂いに染まって青い。待たせている間に汗をかいてしまったグラスに水筒を傾けると、中の薄琥珀で青梅が悠々と泳いだ。  グラスを掲げて透かすと、グラスの六角形と氷の光が乱反射して空を透かし、凛々と晴れた青空に乾杯の形。なるほど、にわかに夏めいていたのは自分だったようである。  一息に呷ればとっくに準備のできていた梅と味蕾が喉を通って体の色を染めていく。  いよいよ春に取り縋るのも難しい七月が始まった。 

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