第36回 残暑の章

2023年05月25日

お題:線香花火、パン 


友人がおもむろにリュックの中から線香花火が入った袋を取り出した。自慢げにコンビニで半額で売ってたんだ、と言ってきた。 「今何月だと思ってるんだ。」 「別に何月だろうがさ、花火をしちゃいけないって理由にはならないだろ?」 そう言ってくっつききった袋の封をぐっと引っ張った。 ぐいとビニールが伸びた瞬間パンッと割け10束程の線香花火が宙へと舞った。 友人は落ちた線香花火を拾い上げ、半分を渡してきた。最近はどこも厳しく花火なんて出来る場所が少ないというのに、一体どこでやろうってんだ。友人についていくと、夜の防波堤に着いた。 友人はパンパンと後ろポケットを確認すると潰れかけた煙草を出して大きくひと吸いして眉間に皺を寄せながら「うま」と言うと右手に持ったライターで線香花火に火を近づけた。が、どうやってもつかない。自分のを奪い取って点けようとするが湿気っていて点かないようだ。 友人は深く煙草を吐いて、「まぁ、そんな時もあるよな」と笑った。 

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