第10回

2019年04月15日

顔がみえない客、捲られてないカレンダー 


usan 248

店に入ってすぐ、八月末からめくられていないカレンダーがある。それを脇目に流して、壁に寄り添うようないつもの席に座った客は、いまさら注文もなく大窓から見える庭を眺めながら――深くかぶったつば広の帽子で顔は見えないから、その帽子が回る先での推測だ――言った。

「ここはいつまで夏なんだ」

 それなりに空調のきいた小さなホールそばのカウンターで、めいっぱい氷を積んだグラスにたっぷりと紅茶を注ぎながら笑ってやる。

「気の済むまで」

 中庭にはひまわりが咲いて、草々は青い。ドア一枚の外は、もう葉が色あせてきている。


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