第14回 梅雨の章
2020年06月21日
甘い、卯の花腐し、梅雨の星、赤紫、強い緑色
家から近い山に咲く白い花を思い出して、衝動と言うには緩やかな気分で傘を差したのだった。
レインブーツで踏み込んだそこは、ちょっとした木々の幕を超えると一気に開けて優しい若草の草原が薄暗い中雨に揺れてちらちら輝いていた。そしてその奥に、連なって頭を垂れる白い花の枝が群れていた。
そっと、秘密の園に這入るように長寿であろう樹のそばに控える。先を垂れる細い枝に咲く花と強い緑色の葉はまだなんのくたびれもなく安心して、それでも卯の花腐しという言葉のまま暫く止むつもりはないのだろうと思った。そこで傘を叩く音がもうないことに気付いて顔を上げる。
ぽっかり開けたような空に、曇天ではなく梅雨の星が光っていた。さあと透った風に気が上向く。
不思議と初夏の味が恋しくなって、家に帰ろうと思った。ベランダで育てている赤紫のしそを収穫して、甘いジュースを作るのだ。
胡散 373文字