第14回 梅雨の章

2020年06月21日

甘い、卯の花腐し、梅雨の星、赤紫、強い緑色 


卯の花腐し、深々と降る雨の中、どこか暗い森の中を

ふらふらと歩いている。

周りには松の木が雨に濡れ、強い緑色を発している。

どこか遠くまできたらしい。

雨音で自分の足音さえも遮られる。

いつから歩いているのだろう、

どこまで歩いていくのだろう。

永遠と思えるほどじっくりと雨の中を歩いている。

ゆっくりだが確かに前へと進む足は

自分の意思とは無関係に動いている。

あぁ、あぁ、と雨に流される涙には味さえ残らない。

ふと、松林をぬけた。

目の前には一面に赤紫が広がっている。

ふらふらと足がもつれ、地面へと食い込ませる。

ふと、顔に滴る水が甘く感じた。生きてる。

ぱっと見上げた空には、煌々と光る梅雨の星があった。

あぁ、生きてる。

あぁ、生きている。

また降り出した雨は、さほど重くもなく。

濡れる自分は嫌ではなく。

淡々と、足は元来た道を辿っていく。

あぁ、生きてる。

まだ、生きてる。

鬱陶しい程の雨、愛おし程の雨。

きっとまだ、生きていける。


touhukan 400文字


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