第15回 梅雨の章

2020年06月21日

手毬花、梅霖、黒南風 


耳に慣れるほど滲むように注がれ続ける雨の音。梅霖とはよく言ったもので、いつから始まったのかさえ忘れてしまいそうになるほど降り続いていた。

 庭に踏み込む度下駄が泥濘に僅かに沈み込む。籠から取り出した鋏で、傘を差したまま花を刈るのも手慣れたものだ。よく丸く咲いた手毬花を、一つ一つ丁寧に切っては籠に入れる。夢中になっていると、それで丁度いいと言わんばかりに湿った風が吹いて髪を攫った。

 見上げると黒い雲が空を覆っていて、世界中から色を奪っているようで憂鬱になりそうだ。だから雨に強いこの鮮やかな花まで、持っていってくれるなとでも言うように。

 それを傍目に家中へ戻る。服を通り抜けるばかりで晴らすもののない黒南風へ背を向けて。


胡散 311文字


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