第12回

2019年04月15日

変質者 暁



春は変質者が多いと言う。変質した者、その言葉が作られた元であるフランス語で言うところのdégénéré――デジェネーレ――。辞書で引いたから覚えている。退廃とか、変質とかそういう意味のもの。

 春の陽気さが静かになって、空が赤くなり始めたくらいからがそういった人間の活動時間だ。

 僕の知っている限り、この街の人間は立春から立夏の夜まで、ずっと眠っている。

 春眠暁を覚えず。そんな街の中に取り残された僕が、毎日のどこかでふと思い出す古い諺だ。

 よく通う図書館で見つけた紐綴じの本に書いてあったこの街の不思議なこと。春になると起こるこのおかしな現象で疑問に思ったことは一つだけ。

 起きて咲く花を守っている僕と、花が散るまで眠っている街の人。一体どっちが変わっているんだろう。本は教えてくれなかった。

(胡散:341文字)


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