第19回 啓蟄の章
2021年03月29日
お題:焼く、雲海、遠くの影
サラサラとグレーの上を流れる花びらは雲海の如く、濃く、薄れることを知らず、
気持ちのいい気温と風が長袖のシャツを通り過ぎて、まるで連れ去られる様に
自分を外へと連れ出した。
「いい天気すぎるな。」
憂鬱な気分な自分とは真逆な浮かれそうな季節に少し悪態をついた。
風が流れる先を追うと、山には遠くの影が映っていた。
誰かに押されるまま歩いていく。どこか近所では炭を焼く匂いがした。
肺の中に冷たい空気と煙が流れ込んで少し咳き込む。
ゴホゴホと喉から音がでる。一斉に視線を感じる。
生きづらい世の中になったな、うんうんと頷き視線を山に戻す。
何もしらない雲を自由に空を流れている。
自分もあの遠くの空を自由に飛べたら、と思う。
車窓のガラスでいくつの山を超えただろうと、
屋根を飛んだり、障害物をよけたり。
大人になったななんて、子供になりたいなんて、
あの頃は早く大人になりたいなんて思ったりもしたが、
どの道、芝生はどこも青く届かないものだ。
touhukan 405文字