第19回 啓蟄の章

2021年03月29日

お題:焼く、雲海、遠くの影


春のざわめきは冬を焼く音だ。坂の上にある焼却炉に久々の餌を入れてやって、火を付ける前にすっかり雪解けした地面を踏んで、少し汗もかきそうな息を整えようと立ってみたら季節の音が聞こえた。

 近くのせせらぎのもう雪解けした音。白かった山がいつの間にか青い遠くの影。芽吹きに合わせて膨らんだ雲海。何かの鳥の鳴き声が響く風は柔らかい土の匂いを運んできている。人間がこたつで丸くなっている間に、すっかり穏やかに季節は移ろっているようだった。レンガの焼却炉の中の古くなったこたつ布団を見て、今年初めて春の中で大きく呼吸してみた。


胡散 256文字


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