第20回 啓蟄の章
2021年03月29日
お題:蓮蕾、逃げ水、ティッシュ
じんわりと沁み出た汗が、つ、と首筋を流れる。
「くそ、今何月だと思ってやがる。」
ぎりぎりと歯をきしませ、煌々と輝く太陽から目を背けた。
汗を拭こうとハンカチを探すがどうやら忘れてしまったらしい、
あぁ、こんな日に限って、だがよくよく考えると
元々自分はハンカチを持ち歩く性格ではないこと思い出した。
リュックの奥底に眠っているしわがれたティッシュをごそごそと
探す。残り2枚ほどしか残ってない、足りるかこれ。
シュッと出すと最後の一枚がひらひらと飛んでいってしまった。
それを取ろうともせず目で追うと湖に浮かぶ蓮蕾があった。
「今何月だと思ってやがる。」
同じ言葉を繰り返す。植物も間違えてしまうほどの暑さと言うのか。
中に半袖を着ていて本当に良かった。
道の先には逃げ水まで見える。俺が間違えているのか?
もう暑さで思考が停止している。
「今何月だと、」
3度目になると思い出し、やれやれと首をふり。
さわさわと音を奏でる木々に自身の影を寄せる。
touhukan 408文字