第21回 啓蟄の章
2021年03月29日
お題:花霞、夏の果、じゃりじゃり
四季というものは二つずつ、似ているのかも知れない。
穏やかに過ごしやすい気温の春と秋、それから生物への厳しさを産む夏と冬。
盛りを終えんとしている様を眺めるため、じゃりじゃりと山の傾斜に臨んで考えるには丁度よい、色はあるが重さのない話であった。
この連なる山の中で一等春が美しく望める頂の少し下の平地、お決まりの岩に腰を落ち着ける。目の前から下り良く咲いて視界をそれと埋め尽くす花霞。青い影に春の色が白く滲んで、風に笑って花びらをこぼして、春を飾りながら去っていく。
ひとたび心を空っぽにして、体中をこの花の香に染める。
秋になれば隣の山で紅葉が赤く燃えるだろう。晩冬に蕾が起きるように、夏の果には錦が色を宿す。
夏と冬は春と秋に恋をしているのだ。私と同じように。
胡散 326文字