第22回 春分の章
2021年03月29日
お題:花守、衣替え、春潮
春潮の穏やかで濃い豊かの色は、鮮やかで深い夏の海ともまた異なって目に優しい。
潮風が届く小高い山の中腹に据えた海を目下に臨める庭で、花守はぱちんと枝を切っていた。
「衣替えかあ」
広い庭の端まで行って振り返れば一人にちょうどよい小さな我が家は更に小さく、手の行き届く良い家は謙虚に座っているように見えた。
気の早い独り言は風が草木を撫でるざわめきで柔く霞む。よく晴れた太陽に照らされ汗ばんできた体を、海を眺めて立つ桜の木陰に寄せさせてもらいながら、今を盛りと緑の山を照らす満開の花のさざめく様を愛でる。
今しがた剪定し終えた紫陽花の葉と枝は、もう二月もすれば雨水を浴びて春と夏の間に花を咲かせるだろう。
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