第23回 春分の章
2021年03月29日
お題:オレンジの空、カラカラ、雷及発声
風が吹いていた。
春らしかった空はあっさり色を移してしまって、これほど綺麗に染まるのだと言わんばかり、言葉の通りオレンジの空は淡い水色よりも眩しい。
その真ん中に君がいた。
もう陰になった黒いアスファルトに薄ぼんやりと浮いた白い花びらの群れが、カラカラと音をたてて、たまに夕日の目に留まり、焼かれ、光りながら流れていく。
自分の事に夢中で何を言ったのかは覚えていないけど、楽しそうに破顔したその様は覚えているんだ。
急に聞こえた雷鳴にびっくりして、示し合わせたように顔を見合わせて笑ったのを。
雷及発声なんて今になって声に出してみたって何も始まったりしないけど、一度大きく鳴いて叩きつけるように在り処を知らせてきたそれに名をつけるには丁度良いだけ。
季節の初めてに体の真ん中を裂いた、初恋だった。
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