第24回 春分の章

2021年03月29日

お題:晩春、ゲリラ豪雨、弥生山


植生を調べるために来た春の山で、早いが仕事も終わりさあ帰ろうと昼時の空を見上げたところでゲリラ豪雨に降られてしまった。

 今日の予報では明日いっぱいまで確実に晴れだった筈で、荷物を減らそうと傘を持っていないと言うのに。幸い狐の嫁入りで俄か雨のようだから、態々濡れてまで急がずともいいだろう。どうせならと少しだけ足を伸ばして、少し上に見えていた老桜に雨宿りを頼んだ。

 この山は周囲より植物の移ろいが緩やか故にこの地域では最後の弥生山を飾るが、周囲の高山に一つ隠れるように生えているせいでそれを見る人はほとんどいない。この春も自分が最初で最後だろうと小岩の獣道を登り満開の大木の根に懐いた。

 そしてそこから見える景色に言葉なく瞠目する。

 晴れた水色の麓に敷かれる山桜の群れが、透ってたなびく霞を纏い驟雨を散らして光る様。

「これを見せたかったんだな」

 晩春の盛りを授けられた名誉は、もう一時降り注いでくれるのだろう。


usan 404文字


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