第26回 立夏の章
2022年06月16日
お題:縫い目、抹茶、湯気
ちくちく布に針を通す。ある程度糸を通したら縫い目をぱんっと張って布を正す。それを繰り返す。夏の着物になる絽は平織りと隙間のある部分が交互にくるため、間隔を決めておかないと縫い目が歪む気がするのだ。そうして目を凝らして何時間縫っただろう、ふっと糸が切れて息を吐く。針を山に戻して首を回すと、窓の外で雨が降っている音がようやく耳に入った。裸足の足先に寒さを覚え、急に飲みたくなった味に立ち上がった。
コーヒー用に買ったドリップポットに水を入れて火にかける。その間に道具を出していれば、ぼこぼこと耳障りの良い音が聞こえて火を止めた。台所に並べた茶碗にポットから湯を注ぎ、その中に竹杓で抹茶を落として一息に茶筅で点てる。雨曇でなんとなし色が褪せて見える中、春苔のように鮮やかな抹茶の泡の色は縫い物の目疲れも癒えるようで楽しい。台所に寄りかかったまま、作法も何もないお茶会は雨音だけがお供だとほくそ笑んで、後で最中も出そうと思った。
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