第27回 夏至の章
2022年06月16日
お題:水浅葱色、体温、自分にしか見えない
シチュ:風が吹くビルの間
陽が差すと薄手のシャツでも長袖はきつい。それがビル街ともなると、そよ風などでは焼け石に水だ。直帰したいな、などと考えながら営業終わり、会社へ戻る信号を待っていた。ちょうど昼の時間、いつもの長い信号をいつものように真後ろのビルが作るささやかな陰でしのごうと近寄ると、二つの建物の間から冷たい風が吹きつけてきた。ビル風だろうか、とにかく茹だる体温が涼を取って軽くなる心地に息を吐く。
また首筋を通る風にまぶたを伏せる。ここの信号は長いからまだ大丈夫......。そんな内に、風が通るだけの灰色のビルの間に、草が生えていることにようやく気付いた。梅雨が明けたか明けてないかの今らしい、たっぷり潤った水色浅葱の草々。自分にしか見えないような、現実えではなく幻想によって育ってきたかのような。
胡散 336文字