第29回 立夏の章
2022年06月16日
お題:うらうら、アイスプラント、からんからんと
今日の天気は春だなと、思うようないい天気だ。
たまに吹く風が少し冷たくてとても気持ちがいい。桜も散って青々とした葉が視界に映る。片手に持ったコーヒーの氷がからんからんと鳴る。湖の見えるコテージで、積んだ本を消化する為に有給を取った。
窓は全開に開け放たれていて、時たま鳥の鳴く声が聞こえてくる。
ラジオからはこの後小雨が降ると言っている。他に開けている窓は無いか頭の中で想像して
一か所寝室の窓が空いていることを思い出す。
読みかけの本を閉じ、寝室の窓を閉めに椅子から立つと玄関の方から声が聞こえる。
「もしもーし」
男性の声だ。すこし身なりを整えて玄関へ、そこには麦わら帽子をかぶって、両手にはたくさんの野菜を持った笑顔のさわやかな青年がいた。
「お久しぶりです!車が見えたので居るかなって思って、これ!」
青年は両手にもった野菜を渡すと、また、と言って帰っていった。前こっちに来ていた時に知り合った近所の農家の息子さんだったか、いつみてもさわやかだな。関心関心と思いながら、いただいた野菜をキッチンまで持っていく。
その中には珍しいものもあった。
「アイスプラント?」軽く洗って一口食べてみる。
これはおいしい、これはすぐ食べたいな。他の野菜を戻し窓際に戻る。
本をぱらぱらと捲りながら、アイスプラントをつまむ。たまに吹く気持ちの良い風とうらうらと注ぐ春の暖かさにこれがしあわせなのかもと想いながらまた本へと視線を戻した。
この後すこし湿った布団で寝ることになるとは思わず。
touhukan 625