第29回 立夏の章

2022年06月16日

お題:うらうら、アイスプラント、からんからんと


晩春の原は青々としている。

 潮風が土にまで届くこの温暖な地から人っ気が去って久しい。近年騒がれている塩害は近代史の中でも酷いもので、農耕地で広々としていた畑の群れを、沿岸に近いところから段々と枯らしてしまった。海辺植えられた松の木なんか慰めにしかならず、木造だろうとコンクリートだろうと家を腐らせ、電線を錆びさせ、人の住めない土地にしてしまった。

 潮風を防ぐならまず木がいる。その木を植えるのに土壌がいる。そうして遠い南、それもアフリカの砂漠からやって来たと言うのが今、一面に収穫期を迎えた。

 その若緑達はまるで人間の事情なんて知らない様子で、海と陸の境界線のように生い茂りながらうらうらと陽向に愛でられている。

 味見でもしてみようかと用意してきたグラス片手にへりに屈んだ。一つ摘んで、霜のついたような菜をしばし眺めてぽいっと含んだ。噛むと控えめにぷちぷちして、何もつけてないのに塩味がほのかにする。それをお茶で流し込むと、からんからんと氷が鳴った。

usan 421


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