第31回 立夏の章
2022年06月16日
お題:強く吹く風の隙間、筍、抹茶
小雨で霧がかっていたが、いざ林の中に入ると肌に落ちる雫はなく、音が届いてくるばかりであった。
首を反らして見上げると、天までとばかりにまっすぐ伸びた竹の清しいこと。薄雲から差す白い光に照らされ、その先で繁る細い葉が、さざなみのような音を鳴らしながら鮮やかな抹茶色にきらめいている。
老いた竹に交じる若竹の背の高さに、今頃筍狩りは遅かったか知らん、と思いながらも、強く風の吹く隙間の奥を目指した。
湿った土の踏み心地に注意しながら、竹に囲まれた平地にようやく感触を得た。手持ちの鍬でひと思いに、とはとんでもない。できるだけ傷つけないように輪郭を掘ってから、このくらいか、と思った深さで鍬を根に振った。
土を踏んでは鍬を振るのを三回繰り返し、ごろごろと土のついた筍を新聞紙で包んでいく。今から急いで返って、みんな灰汁抜きしないといけない。
浮つく気持ちでリュックに詰め、行きとは大違いの重みを背にまた柔い土を踏み出す。霧は晴れていた。
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