第33回 梅雨の章

2022年06月16日

お題:ざあざあ、紫陽花、冷えた身体


遠くから緩やかに迫ってくるようなざぁざぁと音が聞こえる。 くぐもった音に包まれるような錯覚に頭が重たくなる。 火照った体は熱を持っていて貼り付けた熱さましは意味を成していないような、そんな気さえする。外は晴れ間など見せないようなどんよりとした空模様でおとなしくしていろと言われているようだ。 そう思うと反抗心がうずいていてもたってもいられなくてちょっと外に出てみようかなといたずら心が顔を出した。 きっとそうすれば怒られることは想像に容易いのに、未来の自分を考えながら縁側からそとへ体はうごいていた。 熱い体に打ち当たる雨がじんわりと衣服を濡らしていく感覚はとても心地よい。 紫陽花も気持ちよさそうに水滴を湛えている。 この先の未来は確定しているがどうでも良くなるくらいには気分が良かった。 程よく冷えた身体で思うのはどう逃げ遂せるかだけだった。紫陽花を贈りたかったといえば気を逸らすことくらいはできるだろうか。


suzuki 398


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