第34回 緑雨の章
2022年06月16日
お題:梅鼠、追い越す、灼熱、重い、四葩の花
今朝からずっと雨が降り止まないでいた。しょうがないから、ばんっと傘を開いて雨の中に飛び込んだ。身軽でいたいから雨は嫌いだ。元々冷え性というのもあって、初夏に入っていようが今のように手足の先が冷えてしまう。傘の上から伸し掛ってくる気圧も雨粒も追い越すように、早足で灰色の街の下を抜けた。
生温いアスファルトから逃れてようやく鉄コン木造煉瓦の入り交じる建物の敷地に逃げ込み、一直線に向かうは、使われなくなった駐輪場の奥に入り込んで忘れられた半野生化の庭園。
今日の後ろ姿は白い傘を差して、低い植生の草花の中で一等明るかった。声を掛けると横目だけで振り返る。
「咲いたぞ」
佇んでいた隅の方にあった花に思い当たって足取りが軽くなった。
アルカリ性の土壌で色づいた四葩の花が慎ましやかに咲き染めている。天気のせいか、薄暗い中で梅鼠にくすんでいるのが少し不思議で、はしゃいだまま、どうしたんだろうねと言おうと隣を見上げた。
灼熱の、一等明るい視線に噤んだ。
usan 417