第37回 清明の章

2023年05月25日

お題:視力、忘春、憂う


遠くの景色を見る事によって、疲れた目が癒され視力が戻るとされている。とお医者様から聞いた。デジタルの時代である今、私は遠くの景色を見るため、かたんかたたんと電車に揺られている。早すぎないスピードで遠くに流れる景色を眺める。少し暖かくなり、軽くカーディガンを羽織る程度で良くなった気温に自販機で買った暖かい紅茶で冷えた指先の雪解けを感じる。遠くに見える山々には所々遅咲きの桜が点々とあるだけ、ほとんどが夏に向けて緑を伸ばし、青々と葉っぱを揺らしていた。家まであと1駅あるが、歩いて帰ることにした。道中には桜道があり、人々に踏まれ薄汚く花弁の色を変えていた。あの時までは皆嬉しそうに愛でていたのにと憂う気持ちで溢れた。そんな忘春の季節に、お医者様からもうあと3カ月で目が見えなくなると言われた。霞み、歪む視界にハンカチをあてる。あぁ、最後かと思うとすべてが綺麗に見える。青々となる葉も、踏みつぶされた桜でさえも。 

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