第38回 清明の章

2023年05月25日

お題:茹だる、香水、光の粒


燕が来て鴻雁が帰る頃になると、晴れた昼は暑いもので。  小川の側の平地の家と言えば聞こえはいいが、下流で芯の冷たさを失った水流では慰めにはならない。  出掛けの服装を今ははや茹だる温度に合わせてしまうと夜はまだ寒いから、着替える居間から庭に面した硝子戸と、その対面の板戸まで全て開いて風を通してみるが。ささやかに、庭の桜木を散らさないくらいに通る風がワンピースから出る腕とふくらはぎを撫でる。上げた髪のうなじと裸足を慰めてゆくのに息をつくが、こうしていても暑いものは暑い。  部屋の電灯のつけない部屋の中は板目がそのままで光を吸うから薄暗くて、庭と板戸の向こうから入る陽の光が白くて眩しい。手に持った硝子壜の丸い蓋を開いて、頭より高く掲げた手で空中に大きく一プッシュ、二プッシュ。  ちらちら、と光の粒がささやかな風に流されて落ちる中に飛び込んで、舞う。ほのかな匂いと粒子の冷たさが肌の上に触れた。 

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