第40回 寒露の章

2023年10月19日

お題:空気、図書館、冷たい


図書館への道すがらには落ち葉が増えていた。畳の閲覧スペースで読んでいた本のページが無造作に波立って送られて、あわてて指で抑え向こうから冷たい空気が一筋ふれる。顔を上げて上流を辿ると、大きなサッシに嵌められた窓が長細く開いた隙間からするりするりと吹き込んでいるらしかった。空調で温められた部屋に慣れた肌に冴えるような冷たさに驚いたけれど、公共図書館の割によく磨かれているらしい硝子の向こうは紺と紫の襲の尾を美しく引きながら、最後の陽がイチョウを黄金に照らしている。閉館時間の音楽が鳴った。

図書館からの道すがらには落ち葉が増えている。きた時よりも鳴る音を秋虫の鳴き声と一緒に聞き分けながら、帰路をゆっくりと歩いた。がさり、かさかさ、しゃく、ざらざら。宵に踏み込んだ風の束は瑞々しく並木に居るなにものもを撫でていく。これからもっと深くなるほど音と色は増える。鞄に入れた本だけ増えた重みが心地よいような、不思議な気持ちだった。


usan 409


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