第40回 寒露の章

2023年10月19日

お題:空気、図書館、冷たい


動物とすらすれ違わずにたどり着いた

この道を歩くことはないのだとは思うと無くしてしまうという実感が湧いて物悲しさに襲われてしまい緩慢とした速度に落ちる

少子化の加速と不便な土地柄 維持が難しくなったこの図書館は取り壊されることが決まっている

反対の声すらあがらないほどに寂れてしまった、明日にはシートに覆われて慣れ親しんだ風景は変わってしまうのだろう

乱雑に雑草が蔓延る花壇を脇目に1人歩いていると色々な毎日を思い出した

桜散る儚い春も、しとしと雨降る梅雨も、うだるような暑い夏も駆けていく秋も、だんだんと寂しくなっていく冬も私の人生は全部この図書館とあった。それほどたくさんの時間を過ごした思い入れのある場所である、もうすぐ過去になる

今は少ない手押しのガラスの扉を押し迷うことなく書架の部屋へ

開け放たれた扉をくぐると一気に空気が変わるこの静かな空間が大好きだった

独特の甘さを含む埃臭い空気を鼻腔を擽り、ゆっくりと深呼吸をした。鼻の奥がつんとして吐いた空気が冷たく感じる。自分以外には人の気配がないこの空間でわたしは最後の訪問人となるであろう


suzuki 465


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