第42回 落桜の章

2024年11月07日

お題:くゆる煙、桜餅、春休み


春だ、春休みの季節である。

僕がどうにも納得出来ない事が発生している。

目の前にはいくつも均等に並べられている桜餅が鎮座している。

ぷんと香るその匂いが春を感じさせるが、どうにも僕はこの匂いが苦手である。

ただ我が家が和菓子屋をしているだけあってこの季節どうしようもないのだが、

春の菓子としてはあまりにも匂いが強すぎる、そう思うのだ。

今日はいつもの店番である母親が最近足を痛めた祖母を病院へと連れて行っているので、

父親と自分だけでお店をなんとか回している。コミュ障である僕にとってはただの地獄であるが、その稼いだお金で学校へ行かせてもらっているので文句を言わずにぼーっとガラス越しの通りを眺めている。まあ今回に関しては、少しお小遣いをいただけるということもあり、少しはうれしいものもある。厨房では饅頭用の蒸籠から白く細いくゆる煙が流れている。そのなか忙しそうに働く父はいつもより少しだけ頼りがいがあるように見えた。

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遠くに見える煙突からはゆっくりとくゆる煙が永遠と続いている。

今日、祖母が死んだ。そんなに仲は良くなかったが、ただ両親についてたまに顔を合わせてはいた。泣くほどのものではないが、ただ人が死んだというだけでどこから心がそわそわとするものだ。どうにかこの気持ち悪さを泣くそうと火葬を待っている間、母親と一緒にすこし離れた喫茶店にお昼を食べに来ている。ここからはちょうど火葬場の煙突が見えるらしい、白く流れる煙は雲に交じってまるで最初からないみたいに、どこか悲しさやらわびさびやらがある気がした。こじゃれたオムライスを食べながら、その流れる様を見る。ちょうど春休みに入ったタイミングでよかった。学校を休むってなると誰かにはその理由を言わないといけなくなってしまう。それをしないですむだけでもすこし気持ちが晴れる。

どうにか食べ終わり母親と一緒に火葬場へと戻る。綺麗に白くなった祖母だったものを見て、あぁそういえばおばあちゃんがつくってくれる桜餅はおいしかったな。とそう思った。

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