第42回 落桜の章
2024年11月07日
お題:くゆる煙、桜餅、春休み
春休みに実家へ帰ってきた。今は無人なので、なるだけ小まめに帰ってきて風を通してやらないといけない。塵取り片手に障子を擦って、雨を防いでいた年季の入った檜板の群れを縁側の角の雨戸廻しで曲がらせひと所にまとめてしまう。そうやって家中の窓や戸を開けた。敷居をちまちまはわいてやって、都市部より冷めたく澄んだ風が埃っぽかった家の中に通るのをかぐ。大きく深呼吸して立ち上がった。
納屋に放ってあった古い雨戸や障子の建具たちを赤煉瓦積みの窯に折り入れる。痛んで萎びた木材は簡単にぱきんと折れてくれた。新聞紙にマッチで火をつけ、大きくなった火種を入れる。湿気ってはいなかったらしい火勢を見てから、上の室にどっしり詰まった大皿を入れた。
台所で急須にいれた冷水のお茶と懐紙に乗せた桜餅を両手に縁側へ腰掛ける。少し汗ばんだ体を休めながら、くゆる煙を見ていた。昼には包み焼きが食べられるだろう。
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