第44回 立冬の章
2024年11月07日
お題:百千鳥、花冷える、漸寒
漸寒の時期、のどが渇くと、木々が泣いている。
空を見上げるとそんな木々があいてぽっかりと淡い水色の、まるで炭酸ジュースのような
ほのかに甘い空があった。深く深呼吸をすると春、花冷える季節、春千鳥が鳴く頃にはない透き通った空気が鼻腔を通り肺へと入ってくる。落ち葉に隠れた秋虫たちが静かに鳴いている。まるでふわふわとした優しい空気に自然と身体の力が抜けていくのがわかった。
ゆっくりと肺に溜まった、空気を全て吐き出す。少し苦しくなる、そこでもう一度ゆっくりと鼻で息を吸う、何回か繰り返し、今までの人生で汚れ切った自分の全てを出すつもりで何回も何回も、何回も何回も繰り返す。あと何回繰り返せばと思った。途方もない、何回と繰り返したとて自分の汚れた部分を出し切ることなんて出来ないと思う。沈殿してこびりついたようなその汚れはきっと死んで尚も自分の腹の底でぐずぐずとこびりつづけていくのだろう。そしてまた、呼吸を繰り返す。
touhukan 403