第44回 立冬の章
2024年11月07日
お題:百千鳥、花冷える、漸寒
最近夏が短くなってきた。朝晩にエアコンをいれる頻度が少なくなった。
茹だるような暑さと纏わりつく湿度のしつこい季節が終わったことを肌に感じてゆっくりと深呼吸を一つ。肺を満杯にしてやるぞ、の勢いで深く深く吸った。
口を通り喉を通り気管を通って肺に届くようなイメージで。
吸い込まれた空気が充満する感覚にふと記憶が掘り起こされた。
あれは花冷える季節だったか、その少し前には至る所で百千鳥の音が気ままに鳴いていたというのに急激に季節を区切るように気温が下がって同じように味わった。
そんな春を思い出して季節は巡るんだなぁとしみじみとしてしまった。
四季を待ち遠しく感じたのは一体いつまでだったか。春が来て、夏が来て、秋が過ぎれば冬を超えるその時を楽しみ尽くす、そんな余裕は大人になることと引き換えにしてしまった気もする。
早すぎる社会のスピードに追いつこうと必死だったのだろうかとふと半生を振り返れるだけを過ごしてきた。これからも幾度となく季節は巡りその度に深呼吸を繰り返すのだろう。
suzuki 433文字