第45回 十三夜の章
2024年11月07日
テーマ:十三夜
お題:薬掘、薫る
分け行っても分け行っても山、目当てのものはないかと薬堀る皆の声が葉のざわめきと混ざってあちらこちらで音となる。どうだ、ここかと進む姿はどこか幼らしい様子でふっと肩の力が抜けるのを他人事のように味わっていた。囲うように漂う風に薫る新土の、水気を含んだどこか懐かしい香りに呼吸が身体を巡るような感覚を覚えた。長いこと地面に向き合っていたからか音がなりそうなほど固まっている身体を戻すように空に目を向けると出番はまだかと月がうっすらと浮かんでいた。
夜が深まればその輪郭を濃くさせ、絵画のような美しさで優しい光が見下ろすのだろう。
「よし、違うところを、ってうわ!」
十三夜にふさわしい姿に思い馳せてそのままぼうっと進んだのが悪かった。
落ち葉に隠れた木の根に足を取られて大の字に転がってしまった。
先ほどよりも見渡せる暮れ始めた空に先ほどよりも少しハッキリした月が変わらずあった。
「今夜の月は美しかろう」
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