第46回 十三夜の章
2024年11月07日
お題:焼きたてのクッキー、宵の明星
熟れて枯れゆく前の庭が風に撫でられて、芒、萩、藤袴、草も花も一緒くたに細くさざめいていた。
ご馳走を、半分綺麗に削いだ白い月に献じながら舌鼓を打っていると、木々の間の道からさくさく土を踏む人の足音。人影はおういと手を振った。
「米」
と一言、火鉢を挟んで座り米袋を奥へ投げた。手と喉の声だけでいらえを返すと、もぐもぐ動く口元で合点した。
「いいもん食ってるな」
「一杯やって帰れ」
お膳の横の湯呑みと酒瓶を渡して、火鉢の上の鉄瓶を傾けてやる。湯気が幽かな月光に燻って泳ぐ。
「あそうだ、これ」
片手で渡された茶色い袋は何かがごろごろとしてずしりと重く、まだ温かい。鼻は、焼きたてのクッキーの甘い匂いを嗅ぎ分けた。嬉しさに、竹籠を掴んでそのまま渡す。
「丸ごと寄越していいのか。好きだな、お前」
不恰好な湯呑み二つが月に献ぜられる。夜も更けて宵の明星が輝きを増していた。
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