第46回 十三夜の章
2024年11月07日
お題:焼きたてのクッキー、宵の明星
鼻を啜る音が寂しく響いた。
歩く気も無くしてたまたま目に入った公園のベンチで秋風に身を撫でさせて、ただ時間が過ぎていく。夕日で温かく照らされていた子供達もいなくなり余計に拍車をかけるような仄暗さをどこか他人事で見つめていた。
話があると聞いて一緒に食べようと持っていった焼きたてのクッキーは彼の気持ちのように冷えていた。座っているベンチの無機質な冷たさよりもこの手の中にある小さな包みの方が一層冷たく感じてゴミ箱にシュート。吸い込まれるように落ちていったクッキーと一緒に思い出も捨てたように感じて、ただ終わったことだけをわかっていた。
「あーあ」
ちゃんと好きだったと思うんだけど。
誰もいなくなった公園を無人にした。
ゆるゆると濃くなる夜に至る所から浮かんだ家の灯りが幻想的でどこからか漂う生活の香りがアンバランスでなんだか泣けてきた。悲しいのか悔しいのか言葉にできない気持ちがないまぜになって宵の明星が少しぼやけて見えづらい。
suzuki 409