第7回
2018年08月29日
お題:月下美人の強い香り、雪山
397文字
好きな人が事故で亡くなった。
葬式の帰り、自分の気持ちを知ったような風が後ろへ後ろへと
押し返すように身体に纏ってくる。
頬に伝う涙に温度はない。
まだ暑いはずの夏は肌寒く感じた。
遠くの山にでさえ雪が積もっている。
しかいのすべてが色と温度を失い、自分の息さえも冷たく感じた。
すべてだった。
自分のすべてだった。
足元から冷たくなっていくのを感じた。
もう、何も考えたくない、られない。
少しずつ冷たくなっていく体温に少しの安堵を覚えた。
また、彼女に逢えるだろうか。
すこしでもの希望に縋りつくように、
体温は奪われ。
呼吸さえも困難になる。
ふと風が吹き、懐かしい香りがした。
彼女が好きだった花。強い香り。
涙に温度を感じた。
身体に温度が、戻ってくる。
「何が起こっても、きっとそうなるようになって、
それがどんなにかなしいことでも。壊れたら意味がないの
自分で壊したらきっとそこで意味がなくなるの。」
涙はとっくに乾いていた。