第38回 清明の章

2023年05月25日

お題:茹だる、香水、光の粒


ピアノの音が遠くから聞こえる。最近はご自由によ駅やどこかやらでピアノを置いてあるところがある。聞こえるピアノは消して上手いわけではないが、とても丁寧に一音一音弾いているようだった。人通りの少ない喫茶店のテラス席で友人と会うまでの時間をつぶす。目の前では茹だる葉がくるくると踊っている。色よくなってきたらプッシャーを静かに降ろす。温めてあるティーカップに注ぐ。きらきらと琥珀色の光の粒が落ちていく、見とれていると危うく零してしまうところだった。カップを持ち上げ口に運ぶ、一旦匂いを感じる。ふわっとアールグレイの香りと深いところにローズヒップがいる。くぴっと少し口に入れ、口内でくるくると舞わす。鼻腔と口内に香りと味が広がる、目の奥がくっと広がる気がした。ふと、ふわっと見知った香水の香りがした。「おまたせ」そう言って友人は隣の席に座り、自分もと店員に注文をした。好きの香りで包まれている。 

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